美味延年
片瀬洲鼻通り「忠兵衛」
毎年、初詣は藤沢市の鵠沼稲荷神社に参拝する。(詳細は「鎌倉山暮らし」のページ)
毎回の楽しみは参拝の後、どこでメシを、いやどこで一献するかということである。鵠沼海岸から江の島を目指すか、藤沢を目指すか。今回は片瀬の洲鼻通りにある「忠兵衛」に行った。ここは過去数回来たことがある。
比較的安価で旨い魚を喰うことができる店だ。江ノ電の「江ノ島」駅から江の島を目指す真っ直ぐな洲鼻通りの左側にある。観光地という場所柄正月でも店を開けている。店の前の生け簀には伊勢海老や鮑などが入れてあり、注文すると店員がその生け簀に手を突っ込み取ってきて料理してくれる。景気の良かった頃は女房と伊勢海老の刺し身なども喰ったが、今回、一人参拝の年金爺なのでケチして伊勢海老は横目に見ることとし、刺し身の盛り合わせ(大)と生ビールをプハ〜ッ。歩き疲れた体に泡がしみわたる。生ビールは「中」を頼んだのだが、結構でかいジョッキに並々とついである。
刺し身は、これと言って特別な手間をかけているわけではない、当たり前の刺し身だが、これも量が多くとても旨い。満足なり。
胃が動き出す。まだ物足りない。そこで大好きな「ながらみ」と酒を一杯追加。「ながらみ」を爪楊枝でほじくりだしてはチビチビやる。海の香りが口いっぱいに広がる。
ふと壁をみると「生しらすは1月から3月まで禁漁のためお出しできません」と書いてある。地元なら、だれでも知っていることだが、観光客に向けてのお知らせだろう。そんなことは知らんふりして「しらす丼」を看板に出している多くの店から比べれば良心的だ。
刺し身大盛り、生ビール(中)、ながらみ、八海山1杯で3509円なり。正月最初のリーズナブルな一人飲みでした。
<お店情報>
「忠兵衛」
藤沢市片瀬海岸1-11-25 コングラッツ湘南 1F
0466-27-1455
https://precious-mg.com/cyubei/
名店紹介
中目黒「魚いち」
久しぶりに、おいしい店の紹介だ。それは東横線中目黒の駅から徒歩数分の「魚いち」だ。以前、諸用のついでに3回ほど、ふらっと立ち寄ったことがある。魚料理がとても美味かったので、その後も何度か行こうと思ったが、いつも満席で叶わなかった。
今回、約半年ぶりにダメモトで覗いてみた。カウンター席がたった一席あいていた。ラッキー、と席につくなり「お久しぶりです」と板さんが声をかけてくれる。呑兵衛は、このひと声が嬉しいのだ。客の顔を覚えるのも職人技の一つだと思う。
この店は、10人は座れるような長いカウンターの中に板さんは、たった一人。客からは見えない厨房には、もう一人いるようだ。あとはサービスの女性が一人忙しそうにしている。
さっそく、生ビールと大好物の生牡蠣を頼む。おおきな牡蠣はうまくないので、見せてもらうと小柄な美味そうな牡蠣だ。とりあえず二個をたいらげる。さあ、酒と刺身だ。とりあえず鯵と好物の茹でタコを頼む。茹でタコを食べると、だいたいその店の技がわかる。不味い店ではまるでガムのようにベチャベチャと食いきれない。「魚いち」はさすが、シャキッと噛み心地も良い。塩とわさびで美味しくいただいた。鯵の刺身もひと手間かけて、とても食べやすい。
酒も進みおかわりを頼む。さあ、最後は握りだ。ホタテ、赤貝のヒモ、カツオ、鮪赤身をいただいて、大満足。
寒風も気にならず、心たのしく帰路についた。
<お店情報>
「魚いち」
03-3794-1333
カリフォルニア、生牡蠣三昧
生牡蠣に、キリッと冷えた白ワインや生ビール、牡蠣好き呑兵衛にとってカリフォルニアは天国だ。
今回、2周間の滞在中に6店舗で生牡蠣を喰った(後記:店名と地名リスト)。
日本で生牡蠣と言えば、岩牡蠣と真牡蠣など大型の牡蠣が主流だが、カリフォルニアでは小型、中型が多い。なかでも一番人気はクマモト(Kumamoto)という牡蠣だ。もともとは日本原産の牡蠣だが、日本ではあまり知られていない。生牡蠣の好きな仲間が熊本に行った時、この「クマモト牡蠣」を食べたいと言ったが地元の人も知らなかったという。このクマモト牡蠣、カリフォルニアでは、多くの店の牡蠣メニューのトップを飾っている。
他にも、KUSSHI(屈指), ROYAL MIYAGI(ロイヤル宮城), KUMIAI(組合)など不思議なことに日本原産の牡蠣が幅を効かせている。
今回は他にもBeausoleil, Sunseekers, Gigaという種類の牡蠣も初めて食べた。あっさりとしたもの、クリーミーなものなど、それぞれ特色があり、舌をくすぐる。
当地ならではのトッピングがホースラディッシュ(西洋わさび)だ。私は何もかけずに喰うことが多いが、このトッピングは抵抗なく美味しくいただいた。
どこのレストランも気取らず、ラフなスタイルである。温暖なロスならではで、ジーパン、Tシャツの人も多い。外のテーブルで食べることもあった。
今回感じたのは、アメリカでも流通が良くなったということだ。
サンフランシスコから車で3時間ほど東に行った山岳地帯の小さな町Murphysのレストランにも生牡蠣が登場した。その昔、このあたりのスーパーでは新鮮な魚は手に入らなかった。お店に魚が並ぶのは週二回だけだったという。昔と比べれば、牡蠣好きには喜ばしいことである。
さて、日本に帰国。翌日にさっそく牡蠣料理。炭火を起こし、焼き網に昆布を乗せ、その上に牡蠣を乗せて焼き、醤油ひとタレ、燗酒とともに喉を潤す。これ抜群! あ〜やめられない。
<今回の旅で生牡蠣を食べたお店と地名リスト>
Santa Monica Sea Food (Santa Monica)
Murphys Grade (Murphys)
鮨喜扇(Arcadia)
Fishwives(Old Pasadena)
Dive Oyster Bar (Temple City)
Broad Street Oyster Company (Malibu)
酒飲みのいたずら
居酒屋などでよく注文するホッピー、私は黒ホッピーが好きだ。できれば生ホッピーが良いが、この「生」を飲むことのできる店は多くはない。
以前、このホッピービバレッジ社長の石渡美奈さんを友だちに紹介され、赤坂の某焼鳥屋で呑んだことがある。赤坂はホッピービバレッジ本社がある所で、行った店は彼女の行きつけの店だった。
そこで、彼女から教わったのがコーヒーリキュールのホッピー割だ。
コーヒーリキュールと言えばメキシコ産の「カルア」という酒が有名だ。ミルクを足して「カルアミルク」というカクテルは、ほんのり甘く女性にも好まれている。
つい先日、大量のコーヒー豆が手に入ったので、いたずら半分で、このコーヒーリキュール擬(まがい)を作ってみた。
使った豆はアラビカ種、焼酎はクセのない砂糖きびを原料とした「金宮焼酎」だ。原料は「カルア」とほぼ同じだ。
コーヒー豆を焼酎につけ、たった一週間、浮いていた豆は底に沈み、透明な焼酎は、みごとにコーヒー色に染まった。(写真)
調べてみると、カルアと原料は、ほぼ同じものの、砂糖きびを加工する際の工程や、長期間樽で寝かせたりと、その手間のかけかたは大きく違う。しかし出来立ての我がコーヒーリキュールを、ショットグラスで口に含んでみると、コーヒーの素敵な香織が口中いっぱいにひろがった。
今回は、いたずら半分なのでほんの少しか作らなかったものの、大量に作り、樽にでも入れて、ある程度長期間寝かせれば、もっとふくよかになるかもしれない。
本物のカルアは砂糖きび自体の甘さが良い。もし似たような物にするのなら、次回は蜂蜜でも入れてみようかと思っている。
しかし、もしかすると、そんなことを下手にするより本物の「カルア」を買ったほうが安価かもしれない。
性もコリもなく、何でも作ってみたいという気持ちがおさまらないのである。
ジンギスカン
前回も屋号のことを書いたが、今回は料理そのものを屋号にした「ジンギスカン」という店の紹介だ。茅ヶ崎駅の直ぐ側にある。
この店に行ったきっかけは、すぐ近くにあるライブハス「ステージ・コーチ」に出演したときに、他のグループが、リハーサルを終わるなり全員店から出ていった。話を聞くと、旨いジンギスカン屋があるので、このライブハウスに出演する時は、必ず行くという。
その時、私は行きそびれたが、ずっと気になっていた。
ネットで調べるとあの開高健も茅ヶ崎に住んでいた頃には足繁く通ったという歴史ある店らしい。
さっそく先日、娘と孫たちをともなって、その念願の店に行ってみた。
念の為、予約しておいて良かった。店内はほぼ満席。お世辞にもきれいとはいえない。なんとなく昭和の居酒屋というか、下町風な店内には、もうもうと煙が立ち込め、うまそうな匂いが充満している。
北海道のジンギスカンのように、兜のような丸い鉄板で焼くものを想像していたのだが、ここはガスコンロで焼く普通の焼肉屋のようだ。
このガスコンロが、また昭和レトロ的なコンロで懐かしい。
壁に手書きで貼ってあるメニューには「ジンギスカン」の他にも、ホルモンや、普通の焼肉屋のようにカルビとかタン、野菜もある。
私は一人、酒をチビチビやりながら横目で見ていると、大学生と高校生の孫ふたりは、ものすごいピッチで食べている。もうそろそろ終わりかなと思っていたら、更に肉をオーダー。どんぶりメシもきれいにたいらげ、満足そうだ。
4人で満足するまでたいらげても一万円以下、なんともありがたい店である。
「とどろき三丁目五番地」
食堂、レストラン、居酒屋の屋号は色々あるものの、最近は屋号が思い出せないことが多々ある。美味しいイタリア料理店やタイ料理屋の屋号など、外国語だと一層覚えられない。美味しいから再訪したいと思うものの、予約するにも屋号が出てこなければどうしようもない。
つい先日、居酒屋で昔のバンド仲間と一献やった。この店の屋号が突飛だ。所在地をそのまま屋号にしている。「とどろき三丁目五番地」という名前の居酒屋だ。東急大井町線の等々力駅の直ぐ近くにある。
この近くに、レンタルスタジオがあり、以前はリハーサルの帰りによく寄った店だ。音楽仲間とすごすひと時がすきだった。
このスタジオには、我が家から車で行けば第三京浜を出てすぐなので40分もあればつくものの、帰りに仲間とこの店で飲むのが楽しみで、電車を乗り換え1時間半もかけて、重いギターを背負って行ったものだ。
階段を上がり、ガラリ戸を開けて中に入る。左側にはカウンター席、そして厨房に立つのは、いつもの料理人だ。右側はテーブル席が並んでいる。今回もいつもの一番奥の席におさまった。
まずは乾杯、そしてお刺身の盛り合わせ(写真)をいただく。季節柄、銀杏の塩焼きも旨い。さらに馬肉の刺身は生姜醤油が良い。天ぷらも、サクサクと軽く揚げてある。酒も進み、声も高らかに昔の思い出話しに花が咲く。
とにかく、ここの料理は何を注文しても旨いのだ。お魚、野菜、肉料理、揚げ物などなんでもござれだ。
気がつけば、三時間近くも経っていた。
秋の夜、愉快な仲間、美味しい料理に旨い酒、これに勝るものなし。
思い出の酒
酒には、いろいろな思い出が宿る。
高校生の頃、真夏のテニスの試合で汗が滝のように流れたあとに、不良仲間の自宅で勧められてのんだビール、はじめてビールを旨いと思った。
金木犀が香るこの季節になると、思い出すのは「桂花陳酒」という中国の酒だ。
もう50年ほど前になるだろうか、毒蝮三太夫さんが連れて行ってくれた原宿界隈の小洒落た中華料理屋で、彼が食前酒として勧めてくれたのが、この酒だ。ほんのりと金木犀の香りがする甘い酒だ。そのときはオンザロックでいただいた。炭酸で割ってもいいと思う。それ以後、この季節になると思い出す酒だ。
今はなくなってしまったが、茅ヶ崎のパシフィックパークホテルのプールは、どことなく海外のリゾートを思わせる雰囲気だった。ご近所に住んでいたブレッド&バターの二人と、当時、私が番組を担当していたかまやつひろしさんと、このプールに行った。夕闇迫り、徐々に人も減ってきた頃に、ムッシュかまやつが、マティニを飲みたいと言い出した。そこで私はホテルのボーイさんに掛け合って、人数分のマティ二をプールサイドまで運んでもらった。しばらくすると、白いユニフォームを着たボーイさんが、銀盆のうえに乗ったマティ二をしずしずと運んできた。そして皆で乾杯。今、思ってもキザなことをしたと思うが、そんなことが似合うプールだった。このホテルにはいろいろな思い出がある。
その昔、広尾の交差点近くに「ボウモワ」というスコッチウイスキーの名前を屋号にしたバーがあった。それまでは、ウイスキーはあまり好きではなかった。旨いとも思わなかったが、このバーに連れて行ってくれた某広告会社の人に勧められ、はじめてシングルモルトウイスキーを飲んだ。びっくりした。ウイスキーというのはこんなに深い味の素敵な酒だったのだ。はじめてウイスキーを旨いと思った。いままで、時々飲んでいたウイスキーとは、えらい違いだ。それ以後、足繁く通った。私がスコッチウイスキーファンになったのは、このバーがあったからである。
ほかにも、酒にはいろいろな思い出があるが、失敗の苦い思い出もたくさんある。とてもご披露できる思い出ではないので、思い出の酒の話はこの辺で。
おでん
例年に比べ、気温が高い日が多いのに、確実に季節は巡り、彼岸には真っ赤な曼珠沙華が咲き、朝日に照らされて白く輝くすすきの穂は風になびいている。そして、なんとなく「おでん」が食べたい季節でもあるのだ。
気がつけば、スーパーには、ビニール袋に入ったおでんセットが並んでいる。
袋詰のおでんセットには、はんぺん、ちくわなど練り物が多い。そして賞味期限が驚くほど長いのは不思議だ。悪く言えば、妙な防腐剤でも入っているのではないかと疑ってしまう。とは言うものの、災害時などの非常食にはいいかもしれない。
練り物で腹を満たすのは、どうも感心しないので、私は袋物を避ける。
私がおでんネタとして好きなのは、大根だ。袋物を見ると程よい色に煮込まているが、自分でつくるとなると、あの魅力的な飴色にまで煮込むのには時間がかかる。お箸で切れるぐらいトロトロに煮込んだ大根のほろ苦い味は、酒にもよくあう。
私の好きなネタは袋詰には入っていない。それはタコだ。タコは串にさして、食べる少し前に鍋にいれる。時間が長いと固くなってしまうので、ほんの数分で出汁の味が染みたら食べ頃だ。ほかのネタとしては里芋、牛すじ、昆布、豆腐などが好きだ。
余談だが、以前は夜遅く帰宅したときなどは、近くのセブン・イレブンでおでんを買って帰ったものだが、最近は見かけなくなった。小腹をすかした時などには便利だったのに。
おでんには、やはり日本酒だ。熱燗は口にきついので温(ぬる)燗がおでんには合う。いつも一人飯の私は、上の写真のように、事前に温めてある鍋を、愛用の小さな火鉢の上に移し、おでんを一つずつ皿にうつして食べる。鍋は熱くなりすぎないよう、宿屋や居酒屋などで使われている固形燃料が良い。着火も簡単だ。小さな食卓に小さな火鉢と鍋、そして温燗があれば、言う事無し。一人爺のメシのお付き合いは、撮りだめした「虎さん」がおでんにはよく似合う。
酒肴
自制心が欠けているのか、勤めていた会社の風土のせいなのか、理由はさておいて、昼と夜の食事に酒が欠かせなくなった。徐々に体重も増え、血圧も上昇、これではいかんと、10年ほど前から散歩をしたり、泳いだりするように努めてきた。そして2年ほど前から家でのランチはノンアルビールとした。ベルギー産の旨いノンアルビールが見つかったこともある。
しかし、晩飯を喰う前奏としての晩酌だけは欠かせない。夕暮れとともに、一杯やりたくなるものの、六時半まではガマンだ。
晩酌には、酒肴が欠かせない。量は少しでいいが、酒だけではもの足りない。晩酌ははビールやホッピーが多いが、マティニ、ブラディマリー、猛暑の日にはジャマイカラムも良い。その酒に合わせて酒肴を作る。いわゆる袋に入っている「乾き物」は好まない。
夏はなんといっても茹でたての枝豆とビールが一番だ。きゅうりの塩もみも良い。自称「アンチョビキャベツ」と読んでいるツマミも作る。キャベツとアンチョビを一緒に軽く炒めるだけだ。キャベツのパリパリ感が残る程度にサッと炒めるだけなので、あっという間にできる。たまにはフライドポテトも作る。多めに作り、揚げたてのポテトを孫にも分ける。腹をすかせた孫たちはハイエナのようにたかってくるなりケチャップをかけるのだ。私は、その喰い方があまり好きではない。
自称「チーズトティア」というのも得意だ。タコスに使うトティアにとろけるチーズを乗せて、トースターで焼くだけだ。小さな薄ぺたいピザ状のものだ。ピザのように放射状に六等分してつまむ。
天気の良い日には、二階のデッキで晩酌だ。暮れゆく山々と相模湾、町にはポツポツと電気が灯りだす。至福の時だ。
七時から、テレビの報道番組を見ながら食事の支度をはじめる。そして七時半、遅くとも八時には食事を始める。そこで、再び呑み始める。食事のお供にはワイン、日本酒が多い。食事の後片付けが終わると、腰を据えて、またチビチビとウイスキーかバーボンをやる。ツマミはチョコレート、チーズが多い。
こうやって改めて記してみると、やっぱり呑みすぎだよね。
私は、もしやアルコール依存症なのではないかと不安になり、突然に狂ったように一週間ほど禁酒生活をおくることもある。
禁酒があけた日の晩酌が、これまた旨いのである。
酒器
旨い酒は、素敵な酒器で飲みたい。酒器が素晴らしければ、酒も一層旨くなる。ビールは、やっぱりジョッキが良い。小洒落た和風料理屋で小さなグラスにビールを注がれるのは苦手だ。何度も何度も注がねばならない。ビールはチビチビやらず、一気に喉を潤したいものだ。やはり、少し重たげな厚いガラスのジョッキが良い。
飲む酒により酒器が決まる。ワイングラス、マティニグラス、ショットグラス、日本酒の酒器に至っては磁器・陶器から漆器に至るまでいろいろな楽しみ方がある。
旅先で買った酒器、素敵な人からのプレゼントされたグラス、親から譲り受けた酒器など、酒器には思い出が宿る。
我が家には、いつの間にか各種の酒器が溜まってしまった。
昔は、バカラなど高価なグラスや名のある人が作った盃などは大事にしまい込んで眺めていたものだが、年を重ねるとともに気持ちは変化し、眺めているよりも、どんどん使おうということにした。
客人がくれば、最高の酒器で迎える。話にも花が咲き、酔もまわり、手が滑って破損することもある。それでも、ただ飾っておくよりは、使ったほうが酒器の本望というものだ。
上の写真は、親から譲り受けたクリスタルグラスである、鋭いカットグラスだが、どこのものか、どんな縁のあるものかは分からない。バカラなど有名なグラスのように底にも銘は記されていない。これも一脚減って、今は五脚となった。
能登半島一周の旅をした時は、大枚をはたいて輪島塗の盃を買った(写真)。これで酒を飲む時は、寒さに震えながら一緒に旅をしたブラジルの義兄、アメリカの義妹、今は施設に入居したが当時は元気だった妻との楽しい旅の思い出が蘇る。そう言えば、珠洲市でも珠洲焼の一輪挿しを買った。朝市にも行った。
久しぶりに今夜は思い出の盃で一献やりながら、能登の少しでも早い復興を祈るとしよう。
仙鳳趾(せんぽうし)の生牡蠣
私の好きな雑誌「Dancyu」10月号、今回の特集は「そこに行かなきゃ味わえない! ニッポンの旨いもの」。
本を開いてすぐに、いかにもうまそうな生牡蠣の写真が目にとまった。大好物の生牡蠣である。
本によれば、北の二大産地は、仙鳳趾と厚岸(あっけし)とのこと。
「仙鳳趾」、はじめて聞く地名だ。釧路の近くらしい。ここの牡蠣が絶品だという。いつか、北海道にでも行ったときには忘れずに、と思ったものの、こんな美味そうな写真を見てしまうと、無性に生牡蠣が喰いたくなった。生牡蠣の禁断症状だ。
オイスターバーまで行けば生牡蠣は食べられるが、私の知っている信用できる店は都内にしかない。なんとかならないか。そこでパソコンで「生牡蠣 鎌倉」と検索。何軒かの店がひっかかってきた。以前行ったことのある店も含まれている。その店の印象はあまり良くなかったのでパス。店の様子があまりきれいでないところもパス。
絞り切ったのが「COCOMO」という、イタリアンレストランだ。長谷の海沿いにあるらしい。いつも車で通っている海沿いの道なのに、気が付かなかったビルの2階にあるとのこと。半信半疑でランチに出向く。海が目の前に見え、清潔そうな店だ。店内は、ほぼ満席のお客様。念の為予約しておいて良かった。
メニューとは別にA4の紙に「今日のおすすめ」と書いてある。
その1行目、なんという偶然だ! 「仙鳳趾の生牡蠣」とあるではないか。
迷うこと無く2個をオーダー(写真)。クラッシュした氷の上に、プックリと膨らんだ、中ぐらいの大きさの牡蠣だ。見るからに美味そうだ。何もかけずに、そのままペロッとたいあげる。その濃縮されたクリーミーな味わいに満足。キリッと冷えた白ワイン、鎌倉ビールもおいしくいただいた。
ランチのパスタもモチモチで腰もある。たぶん生パスタだろう。カウンターの向こうにはいかにもベテランたるシェフが忙しそうに働いている。店員の対応も、気取ること無く好感がもてる。近い内に再訪したい店になったが、雑誌にもあるように、「そこに行かなきゃ味わえない」。
いつの日か仙鳳趾と厚岸に行って、当地の牡蠣小屋で、とれたての生牡蠣を味わってみたいものだ。
<お店情報>
Ocean harvest cocomo
〒248-0016 神奈川県鎌倉市長谷2丁目8−8
https://www.kamakura-cocomo.com
夢となった「天国にいちばん近い島」
もう、7年も前のことになる。旅仲間6人で、初めてニューカレドニアに行った。当地には、以前の仕事仲間のK夫妻が住んでいることもあり、いわゆるパッケージツアーではなく贅沢仕立ての旅行である。ニューカレドニアといえばフランス領、ということはメシもワインも期待が膨らんだ。
ある晩、K夫妻のご自宅に招待され、彼らの手作りによる豪華な食事会となった。
世界のシェフが絶賛する「天使の海老」を始め、フォアグラ、キリリと冷えたワイン、南国ならではのフルーツなど、さんざん食い散らかし、気がつけば日付が変わっていた。
その思い出のニューカレドニアに、この5月、原住民による暴動が勃発したことは、日本でもニュースで大きく取り上げられた。
我々が乗ったエアー・カラン(ニューカレドニア航空)の直行便もなくなった。気にしていたところ、現地のK君から、最近の当地の様子がメールで送られてきた。少し長くなるが、そのメールを紹介する。
『いま多くのニューカレの人々は9月24日が近づくにつれ、戦々恐々とした日々を送っています。その日は「Fête de la citoyenneté 」と言って、国民の祝日です。「ニューカレドニアの日」、「ニューカレドニア市民の日」また「ニューカレドニア独立の日」などと称されています。
1853年9月24日に 「フランス領土」
となった記念日ですが、先住民「カナック」にとっては 「占領支配された日」でもある訳です。
5月13日に大暴動が勃発して以来、全く変わってしまったニューカレドニア。多少普段の生活に戻りつつあるとはいえ、事態は収まっていません。つい先日も地方の教会(由緒ある歴史的建造物)が放火されました。これで焼かれた教会は5件目です。
暴挙の限りを尽くした過激派の一部が9月24日にまた暴動を企てている動きが見られ、警察・軍隊が警戒体制を強化しています。
現在、ニューカレ全土には夜間外出禁止令(22時~5時)が敷かれていますが、21日からは18時~6時 と、より厳しくなります。16日からはアルコール類の販売も禁止されました。
恐怖と不安な生活を強いられている市民は、何事もなく、また 悪夢に苛まれることがないよう、今は祈るばかりです。』
フランス領でありながらワインさえ呑めない、夕方6時以降外出もできない、言わば戒厳令状態と言わざるを得ないだろう。
「天国にいちばん近い島」に、いつの日か再訪し、あの美味美酒に酔いたいと思っていた我々の夢は、当分かなえられそうもなく「夢のまた夢」と化した。
日本のメディアからはニューカレ情報が消え失せてしまっているので、 あえて、ここにご紹介した次第である。
<追記>
このホームページ更新前日の9/21、K君よりその後の様子がメールで送られてきた。
曰く、『24日を前にまたイヤな状況になってきました。
数日前からヌメア近郊で過激派集団が騒ぎはじめ、住宅地では深夜に爆発音、銃声、怒号奇声が響いています。地方にある伝統的な家屋(カーズ)が全焼し、昨夜は高校に火をつけるなど暴挙に出ています。
水曜日の夜には、過激派の巣窟とも言われる部落で軍隊と衝突があり、過激派2人が死亡。われわれはじっとガマン、静観するしかありません。
11月に、シドニー経由で日本行を予定しています。 また皆さんと食事できたらいいですね。』とのこと。
K夫妻の無事を祈りつつ筆を置く。
トマト酒
トマトにはリコピンという栄養素が多く含まれ、高血圧には良いという宣伝文句は聞いたことがあるだろう。トマトには他にもいろいろな栄養が含まれ、健康にはとても良いらしい。私の友人は毎朝飲んでいたら、癌が消えたという嘘のような本当の話があるほどだ。
その話を聞き、わたしも真似をして毎朝飲んでいる。どうせなら大量摂取ということでトマト料理もよく作る。カレーにトマトジュースを入れたり、煮込み料理にも使う。ミニトマトに塩をほんの少し付けて、コリコリと酒のツマミにも良い。最近はトマト酒にも凝っている。
この季節、ビールとトマトジュースをミックスすれば「レッド・アイ」というカクテルになる。「クラマト(Clamato)」(右写真)というアサリのエキスとトマトジュースをミックスしたカクテル用の飲み物をつかえば更に旨くなる。(クラムとトマトで「クラマト」とはイージーなネーミングだ)
トマト酒では、よく知られているのがブラディ・マリーだ。トマトジュースにウオッカをミックスし、ウースターソース、胡椒、タバスコ、レモン汁など好みの味付けをしてセロリでステアして飲む。
ウオッカの代わりにジンを使えば「ブラディ・サム」というカクテルになる。
更にブラディ・マリーにウオッカを入れなければ「バージン・マリー」というノンアルコール・カクテルだ。
最近、このブラディマリーを飲みたくなったものの、ジンもウオッカも切れていた。かわりに仕方なく焼酎を使った。これがなかなかイケるのだ。使った焼酎は金宮焼酎という砂糖きびを原料にしたものだ。この焼酎、特に特徴はないが、クセがないので何にでも合う。「ブラディ・ニヘー」と言う名にしようと思ったが、血まみれの私は嫌なので「ブラディ・タロー」(写真上)とでもしておこう。
朝コップ一杯のトマトジュース、日暮れになればトマト酒、通販のサブスクで安価にしてラベルレスのトマトジュースが隔月で大量に配達される。今のところ順調に消化しているものの、はたしてこれで血圧が下がるのか。
残念ながら、いまのところそれほどの効果はない。
BAR “VICTORY”
旅先で、その地のバーや居酒屋に行くことは多い。呑兵衛にとっては、その地ならではの酒肴や地酒も楽しいものだが、その旅が終わってしまえば、良い思い出となるだけだ。
しかし今回、呑兵衛仲間と行った沼津のバー「VICTORY」は、初めて再訪に値するバーとなった。
噂には聞いていたが、沼津観光の目的のひとつに、このバーを入れている人もいるという。
沼津駅の近くとはいえ、住宅街にポツンと鎮座するこのバーは1978年創業というから、50年弱も続いていることもあり、いわゆるオーセンティック・バーという雰囲気である。
道路から数段上がったところにある重厚なドアを開け、さらに階段を上がる。大きなカウンターの中には初老のバーテンダーがブラックスーツに身を包んでいる。店内は、ほどよい明るさの照明が良い。ステンドグラスの窓、アンティークらしき飾り物も所々に置いてあるが、決してオーバーデコレーションにはなっていない。心地よいBGMもうっすらと流れている。
我々は人数も多いので、重厚感あふれる木製のテーブル席についた。メニューはないが、カクテルの難しい名前を覚えていなくても、その日の気分や体調を伝えれば老バーテンダーが、それなりのカクテルをミックスしてくれそうだ。
私は、久しぶりに好物のドライ・マティニを注文。黒のユニフォームをまとったボーイが、まず冷え切ったグラスを持ってくる。そのすぐあとにバーテンダー自らがミキシンググラスに入ったマティニをグラスに注ぎに来てくれる。レモンの皮をつまみ、表現は悪いが神官のお祓いのように、さらっと霧をとばして去ってゆく。
このマティニは絶品だった。大好きなマティニなれど、有名無名を問わず、いろいろな所で飲んだが気に入ったミキシングは少ない。ここはベスト3に入る。
つまみに出てきた自家製のキーシュもこれまた絶品であった。
ホテルに帰るべくタクシーをよんでもらう。驚いたことに、バーテンダーとボーイがわざわざドアの外まで来て、頭を下げて見送ってくれた。
妙に肩が凝ることもなく、本当にリラックスして飲めるお気に入りのバーになった。ぜひ再訪したいものだ。
<お店情報>
BAR 「VICTORY」
055-962-0684
おうち生ビール
ビールといえば缶ビールが普通だが、やはり瓶ビールのほうが旨い。そして、できれば樽生ビールと行きたいところだ。
缶ビールや瓶ビールにも「生」と表記してあるものは多いが、やはりタップからジョッキにそそがれる黄金の生ビールに勝るものはない。
昔は、大勢があつまってのパーティなどには、業務用の最も小さな5リットルのタンクを酒屋に予約し、業務用サーバーと大きな思いガスボンベをレンタルし、翌日には酒屋に返却に行くという面倒な手間を掛けてまで、生ビールを飲んだものだ。
数年前、そんな飲み仲間の情報で知ったのが、写真の輸入樽生ビールだ。
以後、我が家のパーティにはかかせない物となった。
何しろ、サーバーとかボンベとか大げさな用意は一切いらない。付属のタップをセットするだけで、旨い生ビールが飲める。飲みきれない場合も横に寝かせて冷蔵庫にいれれば、また翌日でも充分楽しむことができる。しかも賞味期限は3ヶ月。飲みきったら、不燃ごみで出すこともできる。
同じ形式の生ダルは3種類ほど発売されているが、写真のクロンバッハは愛好者が多いのか、いつも品薄だ。ハイネッケンは比較的容易に手にはいる。缶や瓶のハイネッケンは、あまり旨いと思わなかったが、この樽生を飲んで少し見直した。
ドラフトケグ・ジャパンという会社が扱っているが、今はアマゾンでも購入できるようになった。しかし、旨いクロンバッハは在庫切れとなっていた。
いくつかの日本のメーカーも、家庭用の生ビールを販売しているが、初期には専用のサーバーが必要だったり、サブスクだったりと、すこし面倒だ。それに比べ、ご紹介の樽生は、ほとんど手がかからない。
家庭用樽生ビールに関しては、日本のメーカーは遅れをとっていると言わざるを得ない。
今回ご紹介した樽生ビール、本当に旨いので、ぜひお試しを。
昼飲み
私こと、不真面目な社員は、ランチはレストランなどで外食し、一杯飲んでいたものだ。不真面目な上司も一緒だった事がよくある。時には不真面目な役員にも誘われたものだ。常識人から見たら、なんという非常識な会社だろうと思う。会社は赤坂という土地柄、昼間から酒を出す店には事欠かなかった
そんな悪習をひきずったまま63歳でリタイアした私は、その後も昼飲みは続いていた。スパゲティにはワイン、蕎麦には日本酒、丼ものにはビールだ。毎週一度の瓶缶のゴミ出しは、恥ずかしくなるぐらい大量のゴミが出た。
というものの、時代の流れか、歳のせいか、妙に健康意識が高まり、70歳になった頃を堺に、家での昼飲みはやめようと思ったものの、なにか口さみしい。そこでノンアルコールビールを飲み始めた。近くの酒屋に行けば、やれ、オールフリーだとか、記憶力を伸ばすとか、いろんなお題目のノンアルビールを売っている。しかし、はっきり言って、どこのメーカーもまずい。とても満足のいくものではない。
粘着質な私は、国内外のノンアルコールビールを徹底的に比較し尽くした結果、合格点なのが上の写真のベルギー製のクラウスターラーというノンアルビールだ。合格点と言っても私の好きなエール系やIPAより旨いはずはないが、黙っていれば普通のビールと区別はつかないと思う。
私はネットで溜め買いしている。店頭販売は見たことがない。
昼飲みはこれを定番とするものの、やはり夕日が沈む頃になると、本物の缶ビールに手が伸びる。
枝豆を茹でたら、デッキに出て、プシュッ、プハ〜〜。やっぱり、これだよな〜〜。
雲は橙色の濃さを徐々に増し、富士はシルエットとなる。江の島灯台は10秒毎にキラっと光る。昼飲み酒は、なんとか克服したものの、夕方のこの至福の時間は捨てがたい。
魚と寿司「えにし」
なにやら、若者の間では、フィルムのカメラ、レコードプレーヤー、カセットデッキなど昭和レトロが流行っていいるらしい。お台場や、横浜のラーメン博物館など各地で、昭和の町並みを再現しているところがあるらしい。
私達、昭和の人間からすると、懐かしさとともに、なんとなく妙な気持ちになるものだ。
ここ、鎌倉には昭和から続いている一画がある。鎌倉駅の直ぐそばにある「丸七商店街」。商店街の入口を入れば、なんとなく薄暗く、どことなく薄汚れている様子は、まるでタイムスリップしたかのようだ。パン屋、雑貨屋、花屋、ブティック、そして酒飲みには寿司屋、焼き鳥や、居酒屋など小さな店が肩を寄せ合い並んでいる。
この中に、わたしのお気に入りの寿司屋「えにし」がある。カウンター六席だけの小さな店だ。
地酒は地元で
地酒と言うと、日本各地に旨い酒蔵があるが、世界各国にも独特の旨い酒がある。
私が現役の頃、音楽番組の取材でジャマイカに行ったことがある。ジャマイカと言えば音楽はレゲエ・ミュージック、コーヒーはブルーマウンテン、そして酒はジャマイカ・ラムが有名だ。
レゲエミュージックのスタジオ取材では、特殊な楽器以外は全て日本製の楽器なのにびっくりした。コーヒー農園で、旨いブルーマウンテンコーヒーを所望したら、グレードの高いコーヒー豆は、すべてニューヨークと東京に送っていると聞き、これもびっくり。しかしホテルのバーで飲んだラム酒は、本当に美味かった。ライムを縛りオンザロックで飲んだ。
話は変わってブラジルはサンパウロの義兄に教わった「ピンガ」(カシャーサとも言う)という、砂糖きびを原料にした蒸留酒、これについては前回の「木楽」ページでも触れたが、地元ではライムを絞った液と砂糖を混ぜてカクテルとして飲む人が多いが、私はロックで飲む方が好きだ。
余談だが、サンパウロの街頭に出ている露天で絞ったばかりの砂糖きびのジュース、これはとてもふくよかな甘さで美味しいです。
毎年、11月のボージョレーヌーボの解禁はニュースでも取り上げられるが、もう20年ほど前に、仕事でフランスに行った時、タイミングよく解禁日だった。ホテルのロビーではデモンストレーションで小さな紙コップで無料で味わうことが出来た。某広告代理店の女性社長が気に入り、帰国の際、空港で私に聞いた。「ね〜稲生さん、ワインはたくさん売っているけど、ボージョレーっていうお酒はどこで売っているの?」。これは、ちょっとした笑い話。
話を戻す。
最近はクラフトビールとか地ビールがブームになっているが、私が初めて沖縄に行ったときに、多湿高温のなかで飲んだオリオンビールの生ビールのさっぱりとした喉越しがとても気に入り、朝から飲んでいたものだ。最近、オリオンの缶ビールは近所の酒屋にもあるので、飲んでみたが、あの感激には遠く及ばない。
イギリスのパブで飲む、常温のビール、メキシコで飲むテキーラ、 行ったことはないがロシアのウオッカ、そしてアフリカにはバナナやヤシを原料にした酒もあるらしい、アジアにもいろんな酒があるのだろう。
やはり、現地の気候や原産植物がその国ならではの酒を生むのだから、現地で飲むのが良いのだろう。
「世界一周、地酒の旅」なんていうツアーがあったら是非参加したいのだがーーー
ライブバー「Ocean’s Beat」
「酒と音楽」、私にとって、この取り合わせがサイコーだ。ちびちびやりながら音楽を聞くも良し、歌うのも良い。そんなお店が藤沢のライブバー「Ocean’s Beat」だ。(店情報は文末)
いわゆる「ライブハウス」のようにお客様と演奏者の間に壁がないのがライブバーと言えるのだろうか。
近所仲間に連れられて初めてこの店に行ったときには、正直びっくりした。壁には多くのギターやウクレレがぶら下がり、ちょっと狭いけれどステージにはドラム・セット、キーボード、各種のアンプ類、譜面台から何本ものマイクなどが、常時ミキシングアンプに繋がれていて、いつでも演奏が可能だ。
さらに、店内各所にカホンやボンゴ、大型の電気ベース、ほとんど全ての楽器や機材が用意されている。
曜日によって、音楽のジャンルに傾向があるようだが、私の好きなのは火曜日のアコースティック系の音楽を中心にした日だ。
楽器もあり設備も整っているのに、それでも自分の楽器を持ち込むような、凝った人も多い。お客様も、ここで知り合った人達が多いらしく、演者もお客様もまるで昔からの友人のようだ。
このようなライブバーは都内の某所にも行ったことがあるが、ここOcean’s Beatのお客様のレベルは、他の店と比べ高い。なまいきなことを言うが、それなりに聴かせてくれるお客様が多い。
また、ここのマスター「バッキー」さんが、実に素晴らしい。心くばりもあるし、マイクやアンプのミキシングなど、演者に対してのフォローも素早い。そして、なんと彼の歌もギターもお客様を楽しませてくれるのだ。
7/15で開店4周年、これからも酒と音楽の好きな輩(やから)のたまり場として、大いに楽しませてくれる店だ。
<お店情報>
「オーシャンズ・ビート」
藤沢市南藤沢2-10 ワカバビル5F
0466-47-2347
藤沢駅南口を出て左へ。フジサワ名店ビル横を東へ約1分。
1階に牛丼の「松屋」があるビルの5Fです。
https://oceansbeat.jp
美味を求めて
沼津と三島へ
娘たちと7歳の孫との小旅行については「鎌倉山暮らし」のページに書いた。そして、この旅の計画段階から決めていた二軒の名店の味を堪能した。
まず、三島の鰻屋、安政三年創業の「桜家」だ。
食通の姪っ子の情報をもとに行ってみた。お昼時は過ぎているのに、激しく降る雨にもかかわらず、店の外には10人以上の列が出来ていた。私達は、直前に予約をしたこともあり、数分待ちで入ることが出来た。店員のキビキビした対応が気持ち良い。私は、車のキーを娘に渡して、まずビール。
つまみにキモの時雨煮、絶品なり。孫は卵が好きなので「うまき」も頼む。上品な卵焼きの中心に鰻が巻かれている。そして鰻重。ふわっと柔らかく、ふくよかな鰻に、ほの甘いタレ、ついうなってしまった。アメリカ育ちの孫は、好き嫌いが多いらしいが、始めて食べる鰻は気に入ったようだ。大満足の昼飯だった。(店の情報は文末)
そして、沼津の寿司や「双葉寿司」、数年前に旅行仲間と当地に行ったときにホテルのコンシェルジュが言うには「ここなら間違いありません」という情報で行き、大満足した店へ再訪だ。
今回は、旅に出る前に予約しておいた。沼津漁港の周りには寿司屋とうなぎ屋が軒を並べる。平日というのに無料のパーキングはいっぱいなので仕方なく有料Pに駐めたが、後に専用駐車場があるのを知った。次に来るときには、ここに駐めることに。
ここも、店員や板前の対応がとても気持ち良い。まず最初に刺し身の盛り合わせを頼み、生ビールで乾杯。そして、カウンターで大人たちは好き好きに注文。孫は大好きな卵にぎりを7巻も食べて大満足。
にぎりの造作も上品、小さな酢飯のにぎりも呑兵衛には最高だ。酒も進めば、酔も進む。
近い内に再訪することを心に秘めて、大満足の寿司だった。
<お店情報>
■鰻「桜家」
静岡県三島市広小路町13-2
055-975-4520
11:00〜20:00(売り切れじまい)
毎週水曜日定休(月1回 火水連休)
■寿司「双葉寿司」
静岡県沼津市千本港町121-8
050-5304-1831
平日: 昼11:00 〜 14:00 L.O. 13:30
夜16:30 〜 20:00 L.O. 19:30
日土祝: 11:00 〜 20:00
売り切れ次第終了
毎週火曜日定休(祝日の場合は営業し翌日休み 月1回水曜休みあり)
美味の条件
美味い、不味い、は何が基準になるか。味はもちろん、誰と食べるか、料理の盛りつけ方などの、さらには周りの雰囲気も影響するだろう。
私は、外メシでも家メシでも、ひとりメシの機会が多くなった爺だが、これは仕方ないこと。
外食で一人メシが多くなると、気になるのが店員の対応だ。メシ屋でも居酒屋でも、気持ちの良い店員のいるところは概して「旨い」。
店員の対応で度々話題になるのは横浜中華街の小規模の、俗に「旨い」とされている店だ。店員の態度は横柄で、まるで「喰わしてやっている」という対応の店があると聞く。どんなに「味」がよくても、そんな店には行く気がしない。反対に、頼みもしないのに、やたら世間話をされるのも、難聴の私としては余計な神経をつかうので避ける。
話題はそれるが、床屋もそうだ。客に慣れてくると、やたら世間話をする床屋が多い。私の住んでいる地域でも何軒かの床屋に行ったが、世間話がサービスとでも思っている店が多い。現在行っている店は無口、安い、早い、最高である。
話を戻す。
ハキハキと気持ちの良い対応、スマイルがあり、キビキビと働く、そんな店員のいる店はファンになる。
そんな中で、最近気に入っている店は、藤沢の「八雲」という店。なんと、小さな子連れで飲みに来ている人もいるが、店員も客も、なんとも明るい雰囲気に包まれ、もちろん酒もつまみも旨い。
以前に触れたこともあるが、大船の「いつまる」、小さな居酒屋でたった一人の板さんが、なんとも気持ちの良い対応をしてくれる。
そして、鎌倉由比ガ浜通りの「Slove」と言う蕎麦屋。女性と男性の若い店員の対応が気持ち良い。そして一所懸命に働いている姿が美しい。
酒飲みは、いつも旨い店、美酒をもとめて徘徊する。そして、気持ちの良い対応の店をみつければ、足繁く通うのである。
飲み屋、メシ屋にかぎらず、これは、自分も常に心がけねばならないことだと思った次第である。
「ホッピー」バンザイ
以前、この稿で居酒屋を取り上げたが、そこで思い出したのが「ホッピー」である。他に類を見ない日本が誇る飲料は「カルピス」と、この「ホッピー」だけ、とも言えるだろう。
この「ホッピー」、意外にも、私の周りには飲んだことのある人が少ないようなので、知らない人のために、少し蘊蓄(うんちく)をたれる。
ホッピーは戦後、ビールが高嶺の花だった頃にビール代用品として生まれたものと聞く。なんとなく貧乏くさい飲み物というイメージは抜けきれないが、材料は本物のホップを使っているので、なるほどビールに近い。
戦後に販売された頃の成分は知らないが、現在販売されているものは低カロリー(ビールの1/4)、低糖質(1.7g/100ml.)、プリン体ゼロ。飲み慣れれば、本当に「うまい」と思う。飲み方は焼酎の割材として使う。だいたい1:5ぐらいの比率だ。それでもアルコール分は約4.8%で、ビールよりもわずかに低くなる。グラスは事前に冷凍庫で凍らせ、焼酎は瓶ごと冷蔵庫で冷やしたものを使う。全て冷えているので氷を入れない方がお勧めである。居酒屋には氷を入れる店が多いので、「氷いりません」と言っておく。
ビールと同じような色と、黒の2種類が売られている。私は黒ホッピーのファンだ。割る焼酎は「キンミヤ焼酎」という、砂糖きびを原料とした焼酎が合う。この焼酎も驚くほど安価だ。
居酒屋などでは、この焼酎のホッピー割を製品名の「ホッピー」、または「ホッピーセット」としてメニューに載っている。
また、店によっては「生ホッピー」がある。これがまた旨い。私の住んでいる近辺では大船の「なお吉」でしか飲むことが出来ない。
日本独特の酒文化「ホッピー」一度、試してみては如何でしょう。
<蛇足>このホッピーを生産している「ホッピー・ビバレッジ社」が出しているコーラのような飲料「コアップガラナ」もなかなか旨いのです。
お魚亭
娘が一時帰国、さっそく刺し身や寿司が喰いたいという。その夜は大人四人なので回転ではない寿司にすべく、行き慣れた寿司屋に連絡を入れたが、その日は予約がとれなかった。そこで、行ったことはないが気になっていた「お魚亭」という店に予約を入れた。なかなか評判も良いようだ。6時半は満席とのこと、7時なら取れるということで、さっそく行ってみる。
場所は、七里ヶ浜は観光客で賑わう「珊瑚礁本店」のそばだ。店内は明るく清潔そう、カウンター席に加え、テーブル席が4箇所、我々は6人がけの大きなテーブルに通された。珊瑚礁とは対象的に、ここは地元の奥様方に人気なようで、ほぼ満席。 予約しておいて良かった。
まずは恒例の生ビールで乾杯。とりあえず刺し身をいろいろつまむ。イワシ料理が得意とのこと、さっそくイワシの天ぷら、そして大葉揚げは二枚の大葉の間にイワシのつくねが挟まっている。久しぶりに話にも花が咲き、酒もすすむ。あいた徳利は4本、ほかにも娘は白ワインも飲んでいた。にぎりの盛り合わせもいただき、最後はいわしのつみれ汁、これは絶品。近くなので、また行ってみようと思っている。
写真:イワシのつみれ汁、大葉揚げ(中にイワシのミンチがはさんである)、イワシの天ぷら、寿司
<お店情報>
「お魚亭」
鎌倉市七里ガ浜東3-1-9
0467-31-9890
専用駐車場あり
呑兵衛爺の戯言
「居酒屋バンザイ」
私は、列に並ぶ、立喰い、時間制限の飲食店は避ける。忍耐強くないので、コース料理のように、待たされるのも苦手だ。耳が悪いので、フレンチレストランなどで、囁くような料理の説明は聞こえない。
何と言っても、旨くて、早くて、余計な御託がない、しかも安価な居酒屋は最高だ。バーやパブと違い、酒の種類も豊富だ。基本的には日本酒、焼酎が中心となるが、各種のカクテルやウイスキーなどが置いてある店も多い。カウンター席の店が多いので一人でも入りやすい。
都会ならいざ知らず、このような辺境の地にすんでいると、気軽に歩いて行くことが出来る飲み屋はない。しかたなく、我が家でTV相手に一人飲みが多くなる。しかしテレビもつまらない、となると、たまには飲みに行きたくなるものだ。そんなときはバスに乗って、少し遠くまで足を運ぶ。
偶然入った大船の某居酒屋が気に入った。路地を入った狭い店だ。半月ほど後に再訪した。ガラッと引き戸を開けるなり、カウンターの中のオヤジが手を振りながら「あっ、この前いらしたときに気に入っていただいた〇〇というお酒、まだありますよ」。
たった一度しか行っていないの、ちゃんと覚えていてくれたことに感激した。これが職人芸というのだろうか。
気を良くして、その後何度か行ったが、徐々にファンが増えて、最近はいつも満席だ。ミミッチイ話だが冒頭の写真、ライバルが増えたので敢えて屋号の入っている写真は紹介しない。
酒飲み爺にとって居酒屋はありがたい。
居酒屋は日本の文化だ。
ドライマティーニ
まず、マティーニグラスと、ミキシング・グラスの両方に氷と水をいれて、カクテルスプーンでカラカラとかき回し、冷やしておく。
冷蔵庫からオリーブとレモンを出す。オリーブを楊枝に刺し、レモンの皮をほんの少し切り取る。棚からドライ・ベルモットの瓶と、冷蔵庫の冷凍室からジンの瓶をとりだして、これで準備完了。
ここからはスピーディに進めないと水っぽいカクテルになってしまう。
冷えたグラスから氷と水を一度捨てて、ミキシンググラスには新たに氷をいれる。そこにドライベルモットとジンを注ぐ。私の場合、その比率は1:7ぐらいだ。カクテルスプーンでほんの数回ステアし、氷がとけだす前にマティニグラスに注ぐ。そこにオリーブを入れ、レモンの皮を絞る。我がドライマティニの作法である。こうして、書いてみると面倒そうだが、慣れてしまえば大したことはない。たった2種類の酒をミックスするだけの、いたってシンプルなものだが、それなりに奥が深いカクテルだ。人によってミックスの比率も違うし、他の酒やビターを入れたりと、それぞれにこだわりがあるようだ。
一口すすれば、ジン本来の風味に淡いレモンの香りを乗せて、アルコールのキリっとした切れ味が舌を痺れさせる。そして、茜色に染まった夕空に、乾杯。この瞬間が好きだ。
不思議なことに、日本のバーには、カクテルと言えば、女性向きの甘いもの、というイメージがあるらしい。アメリカではどんな田舎の小さなバーでもドライマティニを飲むことが出来る。日本ではカクテルの王道とも言える、旨いドライマティニになかなか出会えないのは、とても残念なことだ。
呑兵衛婆さん
私の婆さんの名は稲生喜美、親父の母親だ。末っ子の私は、婆さん子と言ってもいいほど可愛がられた。風呂に入るのも婆さんが一緒だった。幼い私を洗い場に直立させ、タオルでゴシゴシ洗いながら「ちっちゃなオ◯◯チンだね」と言われたものだ。風呂から上がるときは「ワン、ツー、スリーーー」と、「テン」まで数えさせられた。
婆さんの趣味は謡曲だった。ある日、婆さんに能を見に水道橋の能楽堂に連れて行かれた。真夏の暑い日だった。帰路、駅まで歩いていく途中、ガード下のビアホールに入った。私には目玉焼きを食べさせ、自分は生ビールのジョッキをゴクゴク飲んで「プハ〜ッ、うまい」と、そして「こんなうまいものを男だけじゃ、もったいない」と訳のわからぬことを言っていた。
酒もタバコもやる豪快な婆さんだった。よく、ちり紙で作った紙撚り(こより)で煙管(きせる)の掃除をしていた。ヤニのなんとも嫌な匂いを思い出す。
テレビでプロレスを見ながらシャープ兄弟と力道山の試合に「こんちくしょうーー」等とさけんでは興奮していた。
時は過ぎ、私が大学に入り三田に通っていた頃、婆さんは二の橋のアパートに住んでいた。大学からも歩いて行かれる距離だったこともあり、放課後に度々立ち寄った。そんなある日、何故か一泊することになり、晩飯の際に婆さんが日本酒をついでくれた。呑み相手が欲しかったのかもしれない。酒はとても美味しく、グビグビやっているうちに朦朧としてきて、あとのことはよく覚えていない。
翌朝、頭が痛く、吐き気もした。私の初めての二日酔いの経験だ。
そんな婆さんは、私に呑兵衛の印を押し付けて、昭和55年95才で旅立った。
小洒落た蕎麦屋
「Slove」
鎌倉由比ガ浜通り、笹目バス停そばにあるガラス張りの蕎麦やだ。「Slove」という屋号の看板は目立たないが、外に「十割そば」と大きく表示されているのでわかりやすい。
たいがいの蕎麦屋の名店は、中の様子が見えにくいが、ここはまるで洒落たカフェのごとく、中の様子が丸見えだ。私は、最近この蕎麦屋にハマっている。
私が頼むのはまずビール。
残念なことに生ビールは置いていない。小瓶ビールが2種類だ。突き出しに出てくるごま豆腐が絶品だ。皿のかわりに、小洒落た小さなまな板のような皿に乗ってくる。
そして、酒を飲みたいというと日本酒用の冷蔵庫から何本か出してくれた。
みな美味そうだが、前回来たときにも飲んだ「AZ-Ⅶ」という純米酒を選んだ。アテは、おすすめのクロダイのカルパチョと季節野菜のかき揚げを頼む。味よし、見栄え良し、とくれば酒も進む。
最後は、盛りそば一枚でしめた。
椅子席が約10席のほか、小上がり、カウンター席もある。一人でも入りやすい店だ。
店員のキビキビした応対も気持ち良い。また、近々行こうと思っている。
<お店情報>
鎌倉市由比ガ浜3-9-47
0467-37-3322
https://www.instagram.com/slove__yuigahama/?hl=ja
三点セット
三点セットと言っても、ウイスキー、炭酸と氷のハイボールセットではない。私の「朝の三点セット」だ。
毎夜、酒を飲む。それが翌日まで残って体調に影響するかどうかは、翌朝の三点セットで判断する。それは、<血圧測定>、<前日の日記>、<散歩>、この三点セットだ。
毎朝、起きて、まず血圧を測定する。その数字を見れば、前日の酒が体内にまだ残っているか判断できる。私の素人判断だが、血圧の数値が下がり、脈拍が普段よりも多いときは、前日の酒が体内に残っているのだと思う。
次に、前日の日記を書く。何を食べたか、誰と会ったか、何をして、何を感じたのかを、できる限り詳細に記録する。ボケ防止も兼ねて、あえて翌日に書くことにしている。 普段は自炊なので、食べたものは、ほとんど覚えているが、たまに呑み仲間と居酒屋にでも行き、盛り上がった翌朝は、いったい何を食べたのか、何杯飲んだのか、お店の屋号など、思い出せないことの方が多い。
日記をつけ終わったら、やにわにスニーカーを履いて散歩にでる。
坂道を登れば、その日の体調、というか前日の酒が影響しているかどうかが判断できる。
約1時間の散歩、これからは汗もかく季節だ。汗とともに体内のアルコールも蒸発するのだろうか、帰宅後にシャワーを浴びれば爽やかな朝の気分だ。
そんな朝、「よし、今日はノンアルコールでーー」と、硬く誓うものの、夕日が落ちる頃には、そんな誓いはどこへやら、また、プシュ〜っと栓を抜く。ああ、やめられない、止まらない。
給料日の楽しみは
現役の頃は、会社からの帰宅は東京駅から電車に乗った。現在は湘南新宿ラインとか上野東京ラインとか、いろいろと複雑になっているが、その頃は「湘南電車」だった。湘南電車は東京駅始発だった。だから、東京駅で列に並べば絶対に座ることが出来た。
東京駅から乗車して藤沢駅まで約一時間、小田急江ノ島線に乗り換えて鵠沼海岸で降り、歩いて10分弱で我が家だった。
ドア・ツー・ドア往復で、毎日三時間が通勤時間にかかる。
サラリーマン生活での楽しみは給料日、当時は現金支給だった。つい財布の紐もゆるむ。
給料袋を懐に忍ばせて、まず東京駅でグリーン車のチケットを買い、ホームの売店で缶ビールとツマミを買う。時には日本酒やウイスキーの小瓶も買った。ツマミはバターピーナッツが多かったが乾燥貝柱も、高いけど旨かった。
チビリチビリやりながら、グリーン車の車窓に流れる夜景を見て、一ヶ月の反省をーーそんなことするわけない。とりあえず、のんびり帰宅。これがサラリーマン生活の月に一度の楽しみだった。
そんなある日、姪っ子に言われたことがある。
「ノッペちゃん(なまいきにも年下のくせに俺のことをチャン付けで呼ぶのだ)、お願いだから車内で日本酒とスルメはやめてね」
本人は、気が付かないものの、この取り合わせは芳香が漂う。周りの人に迷惑になるとのこと。そう言われればそうかも知れない。
以来、この組み合わせは、しないようにしているものの、クチャクチャ、チビチビと、これって黄金カップルなのですよね。
山の呑兵衛 後編
「夢」
ここ鎌倉山には一軒の飲み屋もないという「嘆き」は前回書いた。
もし、ここに飲み屋を出店するのなら、土地柄、居酒屋より洒落たバーが良いだろう。
こじんまりした木造の西洋館、ドアを押し、一歩中に入れば漆喰の壁、分厚いクルミ材のバー・カウンターにハイチェア六脚があるだけだ。部屋の隅には小さな薪ストーブに赤い炎が揺れている。カウンターの中には寡黙なバーテンダーが一人。彼がレコードプレーヤにLPレコードをセットする。聞こえてくるのは昔懐かしいジャズだ。渋い女性ヴォーカルならヘレン・メリル、ジョー・パスのギターも素敵だ。ミルス・ブラザースのコーラスはコニャックに合うかもしれない。
酒の種類はそんなに多くなくて良い。スコッチウイスキー、コニャック、ジン、ワイン、そして生ビール、そうそう、私の好きなマティニも飲みたいから、ドライベルモットは置いてもらいたい。寒い冬にはスイートなマンハッタンも飲みたいからライ・ウイスキーとスイート・ベルモットも必要だ。
ツマミは大げさなものはいらない。チーズ、オリーブ、生ハム、ナッツ類、できれば温かいものも少しは欲しい。フライドポテトなんか良いかもしれない。バーの屋号は「ザ・鎌倉山」だ。
こんなバーがあったら素敵ではないですか。
そういえば、以前は美味しいパン屋だった建物がある(写真)。ここならサイコーだ。この季節、窓からは満開の夜桜を愛でることもできる。
現在テナント募集中、だれか出店してくれないかな!
山の呑兵衛の夢は巡るのです。
山の呑兵衛 前編
「嘆き」
今回、「鎌倉山暮らし」ページでも触れたが、ここ鎌倉山1丁目から4丁目まで、飲食のできる店は数少ない。
呑兵衛にとって辛いのは、バー、居酒屋は一軒もないということだ。数少ないカフェやレストランで、食事の前に生ビールを呑むことが出来るのは、ぶっ高いローストビーフの店と、入場料をとる蕎麦屋だけ。
瓶ビールを飲める店はあっても、早い時間に閉店してしまう。
夏の夕暮れ、海からの気持ち良い涼風が頬を撫でる頃、無性に生ビールが飲みたくなる。そんな時は仕方なく山を降りるしかない。当然、車やバイクは使えないので、歩くかバスだ。バスで一駅、歩いて20分も行けば小さな居酒屋がたった1軒ある。「深沢村食堂」というこの店、一人でも入りやすいし女将さんが一人で頑張っている。生ビール以外にも酒や焼酎もある。ツマミ類も豊富だが、(店には申し訳ないが)食通にお勧めできるようなものは少ない。昔は、この店の近所に大きな居酒屋があったが今はマンションに建て替えられてしまった。
問題は、飲んだあとの帰路だ。バスは一時間に一本ぐらいしかないし、酔っ払って山を登るのはとても辛い。しかも、道は狭く暗いので、車にひかれはしないかとヒヤヒヤしながらの山登りとなる。
家についた頃には、疲れ果て、酔いも冷めてしまう。
そして、呑兵衛は再び冷蔵庫を開きプシュッと栓を抜く。
ならば、最初から家呑みにすれば良いのだが、そうはいかないのが呑兵衛たる由縁だ。
だれか、家の近くにバーの一軒も開店してくれれば良いのだがーー。
嘆きは、ここまで。次回は「呑兵衛の夢」でも語ってみようか。